HOTSHOT-TOUR DE FRANCE

最終日シャンゼリゼゴールへのパレードは、ツールの歴史と意味を表している。はじめて見たときにはゆっくりと走る競わないレースの展開をすぐには理解出来なかった。放送でも視聴者からのそんな質問が紹介されていた。2010年ツール・ド・フランスの見どころはSAXOBANKのシュレック兄弟と、俺はコンタドールをアシストする、と言い切った行動の読めないところのある熱血漢、アレキサンダー・ビノクロフの所属するASTANA、そして自分のチームを組織して最後の出場となるツールで有終の美を飾りたいRADIO SHACKのランス・アームストロング。一体どんな展開になるものかとても毎日が楽しみな3週間だった。序盤は案の定個人タイムトライアルでイエロージャージを着たミラクルなスピード王、カンチェラーラが久し振りに設定された石畳のコースなどを我が物にし、レースを盛り上げ、コントロールした。主力選手の落車が相次ぎ、シュレック兄弟の兄、フランクは鎖骨を折って早い段階でリタイアし、アームストロングも度重なる落車で順位を上げることが出来ない。一体全日程を通じて落車しなかった選手がいたのだろうか。時速50キロのスピードで転倒する選手のダメージは計り知れないものがある。スポーツに限らず、アートやデザイン、アルチザンなど、プロフェッショナルな世界の頂点を目指す者にとって、恐怖と痛みはつきものだ。逃れることは出来ない。逃れるということはリタイアすること。序盤はフランスのシャバネルがイエロージャージ、マイヨジョーヌを得るなど、二転三転の展開ではあったが、兄フランクのリタイアで、重要なアシストをなくしたと思われたチームSAXOBANKのアンディ・シュレックが、山岳では勝つことの出来ないカンチェラーラなど、チームメイトのアシストでマイヨジョーヌを着て個人総合のトップを走った。今ひとつ調子の上がらないアルベルト・コンタドールだったが、山岳で、コンタドールの目前で逃げに走ったシュレックのギアトラブルに乗じて首位に立ち、2位シュレックに8秒の差を付けた。ライバルのトラブルにつけ込むかたちで総合のトップに立ったコンタドールに対して、フェアじゃないとの批判があったが、コンタドールはトラブルには気がつかななかったとコメント、幸いにしてシュレックとコンタドールの間には、確執は生まれなかった。8秒の差が縮まらないまま第18ステージの超級山岳でのシュレックとコンタドールの10キロ余りの競り合いは見応えがあった。2010年ツール・ド・フランスの一番の見せ場であったし、勝負所だった。ステージ優勝はシュレックが、コンタドールはマイヨジョーヌを守ったが、大会終了後の総合優勝者へのインタビューでコンタドールが体調の不良を告白し、優勝が心から嬉しいとコメントしていたが、その言葉の奥には、真の勝利者への讃辞が感じられた。ビノクロフはコンタドールを抱きしめてその優勝を喜び、アームストロングは往時の輝きは見せられなかったが、確かな目的のある不屈の精神を感じとらせてくれた。アンディ・シュレックの表情や佇まいが日を追ってある種の光を帯びていくのも印象的だった。かくして、シャンゼリゼへのパレード走行では勝者に敬意を表し、他のスポーツでは考えられない、レース中にシャンパーニュで祝杯を挙げるなど、共に競い合った3週間余りを讃え合いながら、和気あいあいと最後のゴールを目指す。シャンゼリゼ、リボリ通りの周回コースをイギリスのスプリンター、カベンディッシュが勝利し、レースは幕を閉じた。チームや選手たちの作戦や心理が少しは解るようになるにつれて、ツール・ド・フランスをはじめ、各地で開催されるロードレースの虜になっていく。失われつつある高貴な精神の在処を求めて。 ミック・イタヤ

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